インターナショナルなタンカ * International Tanka 

昨秋、若山牧水の短歌を英語とフランス語でご紹介しました(記事末尾)。あれからドイツ語もネットで探してみました。 (記事でも引用)


Wakayama Bokusui' s tanka is translated not only into French and English but into German. →  (to be mentioned later in this article)



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フランス語と英語では単数形の白鳥(しらとり)が ↑
ドイツ語では複数形の白鳥(はくちょう)です! ↓

Weiße Schwäne
seid ihr nicht traurig
so zu schweben
ungefärbt vom Blau des Himmels
vom Blau des Meeres

―Wakayama Bokusui
IN DER FERNE DER FUJI
WOLKENLOS HEITER
Moderne Tanka
Ausgewählt, übersetzt und mit einem Nachwort von
Eduard Klopfenstein ©
MANESSE VERLAG 



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フランス語/英語訳の歌集(左)に続いて、今年はドイツ語訳の歌集を入手しました(右)。
北斎の花鳥画による装丁が粋ですね!表題は「たえて桜のなかりせば」在原業平の和歌の一節です。
平安のドン・ジョヴァンニ、業平さま…次はイタリア語訳の歌集を探してみましょうか。

Snowdrop has got a waka-tanka anhology in German this year (right).
Do you find Hokusai's bird and flowers in the cover design ?
The red characters are the first part of Ariwara no Narihira's waka 🌸


「業平」の画像検索結果
(google search)
🌸 (tr. by snowdrop)
 if there were
no cherry blossoms

in this world,
my heart in spring
would be calmer


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二冊の本で共通して採られている短歌を見つけました。「馬追虫の…」長塚節の味わい深い一首です。
「うまおい」ってどんな虫?秋に鳴く「スイッチョ」です。
英語だと katydid(ケイティディッドゥ)、お馬に乗った紳士のようですね!
フランス語なら sauterelle(ソトレル)、こちらも軽やかです。
ドイツ語は Grashüpfer(グラスヒュプファー)、草の匂いが感じられます。
ちなみに、英語の grasshopper(グラスホッパー)はバッタです。

One tanka on a katydid by Nagatsuka Takeshi is on both these books.
The word "katydid" or "sauterelle" sounds lighter than Japanese "uma-oi"(SUITCHO).

Please listen to SUI…TCHO♪





けれども、この独特の声は歌のなかに出てきません。この歌のポイントは
「髭そよろに」
ふつうの日本語では「髭そよろ」となるところですが
「に」という助詞は「場所」を表すので、歌が理屈っぽくってしまいます。
また、重みのある「に」を繰り返すと、そのつど息継ぎしたくなり、
一陣の風のような秋の軽やかさが伝わらなくなってしまいます。
「うまおいのひげのそよろに来る秋は」と一息に読みましょう。
馬追虫の髭のように長い一節ですが!なんて繊細なお髭!

The above typical sounds, however, do not appear in this tanka.
The coming autumn is depicted delicately by the feelers moving with a breeze.
Its length is implied by the expression "umaoi no hige no soyoro ni"
when being read without taking a breath.
(A postpositional particle "no" connects smoothly these words.)


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馬追虫の髭のように長い蔓草(2016年)*looong creeper like a katydid's feeler



「思ひみる」とは…
meditate(英)、contempler(仏)、bedenken(独)
いずれも「見る」というより「しみじみ思う」という意味です。
meditation(メディテーション、瞑想)という言葉は日本でもおなじみになってきましたね。
contemplerという仏語には、英語にもある「temple」(寺院)という単語が含まれています。
いずれもラテン語のcontemplari に由来するのです。
bedenken は denken(考える)に be-(十分に)という接頭語が付いて
「熟慮する」という意味になりました。いかにもドイツ人気質な単語です!

Omoi-miru (jp) = meditate(eg); contempler(fr); bedenken(de)
These foreign words share a sort of spiritual nuance.
For example, "contempler" includes "temple" (<contemplari, la),
and German prefix "be" means "well".



「漱石」の画像検索結果「proust」の画像検索結果「thomas mann」の画像検索結果



この時代の文化人の決めポーズは、皆この瞑想スタイルですね! (google search)

左から夏目漱石(英国留学した日本人)、マルセル・プルースト(仏)、トーマス・マン(独)

Soseki, Proust, Mann…all of them are meditating in photos ! And Bokusui also…?↓


「若山牧水」の画像検索結果




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Commented by 1go1ex at 2019-01-26 15:15
日本の小説を欧米語に翻訳するのはすごく難しいことだろうと思うのですが、
詩歌はなおさらですね。
snowdropさんが今取り組んでおられる仕事の大変さ、私にも少しだけ想像できます。
それにしても語学に堪能だと世界が広がるでしょうね。
日本の古典芸能が大好きな私ですが、精神が島国根性に陥らないようにしたいです。
古典芸能に共通する精神は決して狭隘なものではないと思いますけれども。
Commented by snowdrop-uta at 2019-01-27 18:43
* 1go1exさん
そうですね。小説は仕事で訳したことはありませんが、大変だろうと思います。
詩歌は手探りで、単語とリズムが降りてくるのを待ちながら、夢中で訳します。
散文だと猪突猛進で、傷めた右手がぶり返してくることもあります。🐗

学生時代は日本文化を一筋につきつめたいと思っていたのに
友人に何度かヨーロッパの旅へ連れ出されて、いまの道に踏み込みました。
アジアを旅する体力があれば、中国語以外もかじってみたかったのですが。

そうそう、昨日の夕刊に観世清和さんの「羽衣」がきれいなカラー写真入りの記事になっていました。
「紀行編」の「赤い玉手箱」、テレビ録画の図版の隣に追記しておきました。
ついでがおありの時にでも覗いてみてください。
今夜は友枝昭世さんの「卒塔婆小町」が放映されますね。
Commented at 2019-01-29 21:29
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by snowdrop-uta at 2019-01-30 20:57
*1月29日の鍵コメさん
お知らせをありがとうございます。
フォローさせていただきました。
こちらはさらにスローになっております。
おたがいぼちぼちゆきましょう。

なるほど、snowdropは
フランス語の caressante にぞくっとしたんです。
英語の breeze は爽やかですが
「そよろに」の訳としてはフランス語に軍配が上がるでしょうか?
興味深いコメントをありがとうございます。
Commented by milletti_naoko at 2019-02-04 05:26
ロダンの考える人は、当時の知識人たちのこういうしぐさから来たのかな、
その逆かななどと、皆の生年と没年を見比べつつ考えてしまいました。

詩文は、原文の音の響きも大切にしなければいけない上に、字数の制約や、
日本語では書かれていなくとも、他の言語では明らかにせざるを得ないものも
でてきて、翻訳にはご苦労も多いことと思いますが、きっとその分、これだ
というよい訳を得られた時の喜びもひとしおでしょうね。

白鳥が一羽か複数かが、欧州言語では読者の想像に委ねる前に、役者が決めざるを
得ないことも含めて。ドイツ語のアンソロジーの表紙、美しいなと思ったら、
なんと北斎の作なんですね。すてきですね。

業平の歌は、ペルージャ外国人大学の日本文学の授業で『伊勢物語』を取り上げたとき、
いくつか紹介した段の中にあるので、その頃授業で使ったプリントに、本の訳を
書き写してあります。伊勢物語もこの段もこの歌も大好きなんです。

Oh, se nel mondo non esistessero affatto i fiori di ciliegio!
In primavera ogni cuore si sentirebbe sollevato.
(Anonimo, "I racconti di Ise", Torino, Einaudi, 1985)
Commented by snowdrop-uta at 2019-02-04 15:33
*naokoさん
コメントをありがとうございます。
おお、ロダンにもつながるかもしれませんね!
そういえば、セザンヌの赤いチョッキの少年も思い出されます。

短歌の外国語訳は、翻訳というより、もう一つのタンカ創作に近いものがあります。
これと思える単語を用いつつ、新しいひびきの歌が生まれたと感じられる時は幸せです。
途方に暮れるときもありますが…どうしても無理な時は訳注を添えます。
字数や行数については、時代と共に自由度が増してきています。

「古池や蛙飛びこむ水の音」の蛙を複数ととる説もあるそうです。
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)がその一人です (以下はネットから引用)。
Old pond―frogs jumped in―sound of water.
― "frogs" (Exotics and Retrospectives)(「異国風物と回想」1898年)

出典付きのご教示をありがとうございます!
業平がイタリア語で嘆いています!まるでオペラのよう!
(業平の子孫の平平(ひらひら)を主人公にした新作オペラを思い出します♪)

貴ブログに引かれていた白秋の歌も好きです。

寂しさに海を覗けばあはれあはれ章魚逃げてゆく真昼の光

https://www.youtube.com/watch?v=5kWtuCwiDfg
https://www.youtube.com/watch?v=tFB_nscxTt0

短い動画を2つ見つけたので、お手すきの時にでもどうぞ。水中編、地上編です。

足八本そろえて直進水中の章魚はすぐれた背泳選手 snowdrop
by snowdrop-uta | 2019-01-25 05:50 | 本棚から(book) | Comments(6)

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