しらとりは何羽いる * How many white birds are in this tanka?

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Bokusui's Love by Machi Tawara
Wakayama Bokusui is a tanka poet (wiki)


白鳥(しらとり)は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水


この短歌を翻訳するとき、まず迷うのは「白鳥」が単数形か複数形か、という問題である。
『近現代短歌アンソロジー』(仏語短歌出版、佐佐木幸綱序文)では、仏訳、英訳ともに単数形になっている。

Those who translate the below tanka must consider first whether "a white bird" or "white birds".
Both French and English translations use the plural form (Anthologie de tanka japonais modernes).



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Anthologie de tanka japonais modernes / An anthology of modern Japanese tanka



けれども、俵万智はなんとなく二、三羽であると感じていたという。
彼女の恩師、佐佐木幸綱も講義のなかで、一羽ではむしろ端的すぎる、
牧水の孤独はカオスを持った猥雑なもので、二、三羽いた方が牧水らしいと述べた。

But the author had felt in her school days that Bokusui sang a few birds.
Her professor Yukitsuna Sasaki also interpreted in his lecture that
Bokusui's solitude includes vulgar chaos and a few birds fit this tanka.



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『牧水の恋』の表紙には白い鳥が二羽が描かれている。まるで牧水とその恋人のような番(つがい)の鳥。
けれど、裏表紙を見ればもう一羽…この恋は三角関係であった。いや、正しくは四角関係であったのだ。

Two white birds are seen on the front cover of this book like Bokusui and his lover.
But there is another bird on the back cover…Bokusui's love was a love triangle or quadrangle.



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なお、この「白鳥」は「はくちょう」とは限らない。
雑誌発表時には「はくてう」というルビが打たれていたが、
これは活版印刷の活字上のミスで、後に「しらとり」と改められたという。
表紙の絵の鳥も、白鳥よりはユリカモメのように見える。

The white birds are not necessarily swans. The illustrated birds look like hooded gulls.



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狩野山雪筆「雪汀小禽図屏風」のユリカモメ*hooded gulls painted by Kano Sansetsu


鳥の目は下から閉ぢる大粒の涙をまぶたに閉ぢこめるため (2015年)

Les yeux d’ oiseau ferment de bas,
c’est pour enfermer de grosses larmes dans les paupières.




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同上 * idem.



「染まずただよふ」というゆったり感は、飛んでいる鳥というより
海に浮かぶ鳥を眺めている感じである、と佐佐木幸綱は説く。
けれども、牧水の気性やこの恋の顛末といった背景知識のない読者は
むしろ一羽の鳥の飛翔をイメージするのではなかろうか。
とりわけ若人は、孤高 ― 孤独なる高み ― にあこがれるものだから。

According to the professor, Yukitsuna Sasaki,
the depiction "float(s) without being dyed" suggests
the bird(s) floating on the sea rather than the flying bird(s).
But a reader who has no background knowledge of Bokusui's character and of his love
might imagine a single flying bird.
Especially a young reader, who often longs for the solitude and aloofness.



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礼文島のカモメ(2014年)


時間には「クロノス時間」と「カイロス時間」があるという。
前者は直線的に流れる客観的時間、後者はときにたゆたい、ときに瞬間的な主観的時間。
この短歌にながれている時間は、じつはカイロス時間ではないだろうか。
飛んでいる白い鳥は、見る者の心の中でたゆたい、その一瞬は永遠に静止する。
まるで一葉の写真のように。あるいは連続イメージのフィルムのように。

It is said that there are two kinds of times: the Chronos time and the Kairos time.
While the former is objective and linear, the latter subjective and sometimes momentary.
I think this tanka is in the Kairos time. In a reader's mind,
a moment of a flying white bird can be cut and rest eternally like a photograph.




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といふ時の襲(かさね)をまとふとき夕べはやきを人はとまどふ

en mettant
la gradation du temps de l' automne
on est embarrassé
par les crépuscules si courts



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もっとも佐佐木幸綱は、孤独な白い鳥に憧れる若人の心を承知していて
逆説によって学生たちに揺さぶりをかけたのかもしれない。そして
俵万智はやわらかで鋭い鑑賞眼をそなえた女子大生だったのだろう。

Yukitsuna Sasaki knew the young mind's preference for the solitary white bird
and might have tried to upset them by his paradox.
And his pupil, Machi Tawara must have been a university student with a flexible way of thinking.


青つながりのおまけ * Blue Bonus in my archives


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みづうみの光あつめて白鳥は空のかなたの星とかがやく☆彡

gathering
sparkling lihgts on a lake
a white bird
change to a star
in a distance

みづうみの光あつめて白鳥はまひるの空の星となるらむ


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フィンランドの紙幣とフィヨルド(1997年)


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色とりどりの紅葉&お気に入り秋ショット2018!
















Commented by umitosora14 at 2018-11-25 22:12
今晩は^^
あ~この詩!私の大好きな歌のひとつです*^^*
ただ、記事を読みだして、えっ?白鳥?えっ、複数?!
と衝撃でした 笑
牧水に関しての知識も何もなく、
学生の頃にこの詩に出会って。
海上を孤独に舞い飛ぶ白い鳥、白いかもめのようなイメージを、ずっと描いてました
そうなんですね、牧水の人柄・背景を知ると、違う情景が描かれるんですね
この詩と、俵万智さんの「大漁」って歌が、
海を舞台にしたとても心に響く歌です
Commented by snowdrop-uta at 2018-11-26 06:36
*umiさん
snowdropも衝撃でした!
たぶん海と空の間を飛ぶ白い鳥一羽、というイメージを持つ人が
多数派だと思いますよ、snowdropも含めて…^^
「大漁」も衝撃ですよね。
「祭りのようだけど」から
「海のなかでは何万の鰯のとむらいするだろう」への転換が心を揺さぶります(この詩でしょうか?)。
金子みすゞはお魚や雪や、さまざまなものの心に寄り添う詩人ですね。
俵万智は、漁業の盛んな福井の出だったのですね。お魚の短歌を探してみようかしら。
Commented by umitosora14 at 2018-11-26 13:00
こんにちは^^
はい、その詩です!
すみません、わたし、誤記したままでした@@
俵万智さんって書いてから、違う違う、金子みすゞさんって、思い直したのに@@
自分の頭の中だけ書き直し、
コメントをそのまま書き直さずに、送信してました><
なんていい加減なわたし ^^; 笑
Commented at 2018-11-26 13:37
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2018-11-26 13:58
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by snowdrop-uta at 2018-11-27 05:46
*umiさん
パソコンってどこか気ぜわしくて、フライングしがちですよね。
よくあることですよ~ドンマイ、ドンマイ。^^
俵万智、『サラダ記念日』を見たら、あらら大阪出身でした!

空の青海のあおさのその間(あわい)サーフボードの君を見つめる 俵万智

平成の最後の秋の神戸港 万智とカレシとオブジェを見たり snowdrop

せっかくだから、最後に追記した蔵出し写真も見て行ってくださいね♪
Commented by snowdrop-uta at 2018-11-27 06:11
*鍵コメさん
湖(うみ)の白鳥、フィンランドの紙幣を思い出しました。
子供のころ聴いた歌や眺めた絵本も、その人のイメージのベースになりますものね。
歌といえば、子供のころ
「兎追いしかの山~♪」を「兎美味し…」と思い込んでいました。
食いしん坊のプチsnowdropに苦笑。^^;

お知らせをありがとうございます。さっそくフォローさせて頂きました。
Commented by milletti_naoko at 2018-11-27 19:06
わたしも白鳥は一羽と思い込んでいたのでおもしろいなと思いました。
海と空の間ということで、わたしのイメージの中ではその境目、
海の上に浮かんでいるのですが、いろいろな解釈が可能なんですね。
Commented by snowdrop-uta at 2018-11-27 20:55
*naokoさんも一羽派なんですね。
なおこさんのイタリア写真草子を散策したら
こんなイメージそっくりの水鳥のお写真が見つかるかも?

そういえば「体言止め」、短歌ではその体言を強調する時などに使います。
散文で用いると、詩のような効果が出るかもしれませんね。

とある歌人は、歌集を編むにあたって
若いころの歌を推敲し始めたのですが、きりがなくなって
結局手を入れるのを諦めたとか…
若書きには若書きの良さもあるのかもしれません。
かく言う私も、以前に公開した歌をひっそり改変したりしていますが。
おたがい疲れが出ない程度にしておくといいかもしれませんね。

by snowdrop-uta | 2018-11-25 17:07 | 本棚から(book) | Comments(9)

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