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追憶の桜 * cherry blossoms in memories

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二十年(はたとせ)前、母と訪ねた平安神宮の桜、今年ひさびさに見に行きました。(三月下旬)
花や昔の花ならぬ…花は昔どおりの花ではありませんでした。『細雪』や『古都』を彷彿とさせる紅しだれ桜は若木に替わり、池畔の桜も勢いを失っていました。あれは一期一会の花見だったのですね。

The weeping cherries in Heian Jingu Shrine in March that I appreciated with my mother around twenty years ago…. The cherry blossoms were not what they had been. The cherry trees referred in The Makioka Sisters by TANIZAKI Junichiro and The Old Capital by KAWABATA Yasunari, some of which were replaced by younger ones and some have lost vigor. That cherry-blossom viewing was an once-in-a-lifetime experience.


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康成のさくら潤一郎のさくら母と一緒にはるかな空へ

母と見し(おほ)き桜は代替はり若木の奥に四十雀鳴く

le grand cerisier
que je vis avec ma mère
est succédé
par un jeune cerisier
auquel fond chante un mésange


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「夕空にひろがっている紅の雲」(『細雪』)の紅枝垂(三連パノラマ)


二十年前のアルバム。その日の桜の花びらも貼りこんで…(アナログ!) お時間が許せば、冒頭の二枚の写真と同じ構図を探してみてください。

「西の廻廊の入り口に立つと、紅しだれ桜たちの花むらが、たちまち、人を春にする」―『古都』

今なら、詩的なこの一節を書き写すかもしれません。継ぎ紙の便箋を見つけたのは、嵐山だったか、嵯峨野だったか…。

Here is my book of photographs twenty years ago with the citations from the books of the above authors and with the petals we picked up that day. Do you find two photos whose compositions are the same as those of the above photos (March in 2018) ?



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白虎池と菖蒲


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臥龍橋とも呼ばれる飛び石(手前)と茶室(右)* steppingstones and a tea house (right) 



「茶室の下の小みちを抜けると、池がある。岸近くに、しょうぶの葉が、若いみどり色で、立ちきそっている。睡蓮の葉も水のおもてに浮き出ていた。(…)真一は先きに立って、池のなかの飛び石を渡った。(…)鳥居を切ってならべたような、円い飛び石である。(…)もちろん、老女も渡れる飛び石である。」―『古都』

この「沢渡(さわた)り」という飛び石の上で、母に写真を撮ってもらいました。とろいsnowdropにはけっこうスリリングでした!今は立ち入りが禁じられています。

My mother took a photo of snowdrop on one of these steppingstones called Sawatari (or Lying Dragon Bridge). Though Yasunari wrote "they are the steppingstones even an old woman can walk over", it was thrilling for snowdrop, a poor athlete ! One finds a signboard "Keep Out" at this spot today.



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橋殿をのぞむ


「やがて橋殿にかかった。正しくは泰平閣と呼ぶように「殿」の姿も思わせる「橋」である。橋の両側は、低いもたれのある床几のようになっている。人々はここに腰かけて休む。池ごしに庭のたたずまいをながめる。」―『古都』

母と一服した橋殿(泰平閣)の上。今年はここで、フランスからの旅行客の写真を撮ってあげました。スマホ慣れしていないsnowdropには難しくて……ボン・ヴォヤージュ(よい旅を) !

On Hashi-dono, where we had taken a rest, I took a photo of French travelers. It was difficult for me to operate a smart phone ! Bon voyage !


橋殿から池のなかに庭のたたずまいを…

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池のうへ泰平閣に風わたりアッセ・ソンブル(ヒンヤリ暗イ)と旅人の声

au Hashi-dono
sur l’ étang

la brise souffle,

un voix d’ un des voyageurs

“assez sombre



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同じ桜を、違うアングルから ↑↓*the same cherry tree from different spots

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「橋の向うに、うちの好きな桜があります」「ここからも見える、あれね」
その紅しだれは、もっともみごとであった。名木としても知られている。枝はしだれ柳のように垂れて、そしてひろがっている。その下に行くと、あるなしのそよ風に、花は千重子の足もとや肩にも散った。」―『古都』

The heroine of The Old Capital loves this cherry tree best. ↑↓


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「(…)まことに、ここの花をおいて、京洛の花を代表するものはないと言ってよい。」

これは『古都』に引かれた『細雪』(谷崎潤一郎)の一節です。『細雪』では、登場人物の幸子が、平安神宮から帰って歌を詠みます。

「ゆく春の名残り惜しさに散る花を袂のうちに秘めておかまし」

夫の机の上の書簡箋の余白に鉛筆で走り書きした歌。明くる朝、この歌のあとへ、夫の手で次のような歌が記されていました。

「いとせめて花見ごろもに花びらを秘めておかまし春のなごりに」

夫貞之助の目には、春の装いの四人姉妹が、花そのものと映っていたのでしょう。それは、いずれ思い出に変わってしまう花……先取りされた追憶でした。

In Junichiro' s novel, one of Makioka sisters and her husband composed rather banal waka. Their waka represent the nostalgia in advance, the memory of the sisters in the livery of spring just like the ephemeral cherry blossoms.



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疎水に散る桜 * falling petals on the water


ちらちらてふ言の葉どおり花びらは散るよ重さも涙もなしに

volant au vent
des pétales de fleurs de cerisiers,
ils tombent
sans poids
sans tristesse



関連画像


おまけ*映画「細雪」(市川崑監督)(上)とNHKドラマ「平成細雪」(下)(google search)
Bonus*The Makioka Sisters directed by ICHIKAWA Kon*Do you find KISHI Keiko?(upper figure)
The Makioka Sisters in the Heisei period (2018, NHK) (below figure) (All Rights Reserved)


「NHKドラマ 平成細雪」の画像検索結果



春の桜ショット&私のお花見弁当【PR】
Commented by pikorin77jp at 2018-04-07 19:38
こんばんは。
アルバムの写真の二枚すぐみつけられましたよ^^20年前とほとんど変わっていませね。
細雪 吉永小百合さんの あの映画がとっても好きで 何度かみました。 あのお見合いのお花見のシーン、、、美しいです。。。 着物も美しく 女優さんたちもしっとりと品があって一番好きな日本映画といってもいいくらいです。平成細雪はあまり好きではありませんでしたが、、、
池に写り込んだ桜、、、綺麗です。
Commented by snowdrop-uta at 2018-04-07 20:20
*pikoさん、こんばんは。
古いアルバムの小さな写真、見つけてくださったんですね!嬉しいです。
約10年前のしだれ桜の写真を、別の方のブログで見たのですが、やはり20年前とほぼ同じでした。この10年で少し衰えたのでしょうか。
あるいは、追憶の桜は心の中で大きくなり、美化されたのかもしれません。。。
この映画の「細雪」、私も好きです。ドラマはじつは初回しか見なかったんですが、
記憶に新しい方もいらっしゃるかと思ってご紹介しました。
花と水が出会うと、さまざまな表情が生まれますね。ぴこさんの流し椿も綺麗です。


Commented by milletti_naoko at 2018-04-09 00:45
青空の下、いっぱいに光を浴びて、桜色が輝くような桜、きれいですね。花が少ないからこそ、かえって一つ一つの花の輝きが増しているような気もします。水鏡もきれいですね。花を愛でる気持ち、その思いや風習が文化となり心となって、文学作品を通しても受け継がれていく、小説にせよ古典作品にせよ、和歌や短歌にせよ、すてきなことだなと思います。今はそれに写真が加わっていますが、やはり言葉にはことば独特の力がある気がします。
Commented by snowdrop-uta at 2018-04-09 06:51
*なおこさん
平安神宮の朝桜をお届けできて嬉しいです。
そうですね。花が少ないと、一輪一輪が懸命に咲きますものね。
言葉にはことば独特の力……本当にそうですね。
じつは写真短歌と、独立した短歌との作り分けに悩むこともあるんです。
和歌の時代でも、屏風絵に合わせて屏風歌を詠んだり、心象を独立して詠んだり、色々ですけれど…
言葉だけで写真のように鮮やかな映像が見える歌を、いつか詠んでみたいです。
Commented by pintaro23 at 2018-04-09 07:35
おはようございます。
平安神宮の桜の画像を見た途端、『細雪』を思い浮かべたら・・・最後に出てきて嬉しくなりました。
私は京都に近いという事もあり殆ど京都を巡りましたが、平安神宮へは桜の時季に訪れたことがありません。
人が多過ぎるのが一番の理由なんです(笑)訪れたのはあまり花の無い時季でした。

1983年の映画、観ましたよ。小説も読んでいたので、是非観たいと思ったのです。
各々のキャストが、はまり役だったと記憶しています。
最近BSTVでもドラマが放送されていて1回は観たのですが、ついつい忘れてしまい全部は観られなくて残念です。
Sabio
Commented by snowdrop-uta at 2018-04-10 18:26
*Sabioさん、コメントをありがとうございます。
今年の平安神宮のしだれ桜は、例年より早く見ごろを迎えたのと、
朝一番に訪ねたこともあって、覚悟していたより人が少なく拍子抜けしました。
Sabioさんは静かに今年の花を愛でられたのですね。
水火天満宮・本法寺・妙顕寺…しおり代わりに書き写させて頂けば、まるで詩の一節のようです。

まっさきに『細雪』を思い浮かべてくださったのですね。
画像をお借りしてきた甲斐がありました。
映画はだいぶ前に見たきりですが、
佐久間良子演じる幸子が苺にかぶりつく場面がありましたっけ…
前後は忘れてしまったのですが。^^
そちらでエア花見弁当も楽しませて頂きました。ごちそうさまでした。
Commented by snowmarch321 at 2018-04-12 21:50
少しご無沙汰しました。
「細雪」も「古都」もともに京都を舞台に華ある世界が描かれていますね。「細雪」は吉永小百合さんがあまりに美しいのでうっとりしました。でも、最近見た平成細雪のおきやんちゃんの女優さんも現代的に描かれていて好きでした。「古都」は読みましたが、「細雪」は読んでいないです。「古都」の抜粋、懐かしいです。もう細部はすっかり忘れていてはじめに読んだときは、読んでいたことを思い出せませんでした。大雑把な記憶しかなかったですが、抜粋を読んでやっぱり味わい深く感じました。おかげさまでまた懐かしい記憶にめぐりあえました。
Commented by snowdrop-uta at 2018-04-13 07:06
*snowmarchさん
お越しくださって嬉しいです。
「細雪」の吉永小百合さん、きれいでした。まさに昭和細雪でしたね!
平成細雪も、いつか懐かしく見える時が来るんでしょうね…
snowmarchさんも『古都』をお読みになったことがあるんですね。
私も久しぶりに読み返して、違う細部に目が留まりました。
忘れてしまったおかげで一から楽しみ直せるところもありました。
懐かしい記憶と今の瞬間とを重ね合わせる時、何十年か生きてきてよかったと思えます。^^
まだまだ寒暖の差が大きいですが、お互い大事にしましょうね。
by snowdrop-uta | 2018-04-06 20:40 | 本棚から(book) | Comments(8)

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